不動産クラウドファンディングの優先劣後方式とは

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#用語解説 #投資の仕組み・スキーム

不動産クラウドファンディングには優先劣後方式という投資家のリスクを軽減する仕組みがあります。不動産の価格変動や空室率などによっては元本割れする可能性があるため、優先劣後方式の内容や注意点を知っておくことは大変重要になります。

そこで今回は、優先劣後方式の仕組みやメリット・デメリットなどについて詳しく解説します。不動産クラウドファンディングを始めようとしている方は、ぜひ参考にしてください。

不動産クラウドファンディングの優先劣後方式とは

不動産クラウドファンディングには、投資家の元本割れリスクを低くする「優先劣後方式」という仕組みがあります。

投資したファンドは、運用により賃料収入や売却益を得て、それらを原資として配当が分配されます。ただし不動産を扱った投資である以上、運用によって100%利益が出るとは限らず、最終的に損失が生じる可能性も否定できません。例えば、物件の取得価格よりも価格が下がれば売却時に損失が生じます。また、賃貸物件の空室率が高い状態が続けば運用益が少なくなります。

このような損失リスクを完全に避けるのは不可能です。しかし、優先劣後方式を採用しているファンドは、一定の比率までは投資家の元本が守られるため、投資家の損失リスクを抑えることができます。

優先劣後方式の仕組み

優先劣後方式

優先劣後方式を採用しているファンドは、投資家だけでなく、事業者自身も出資を行います。このとき、投資家の出資金を「優先出資」、事業者の出資金を「劣後出資」といいます。

そして、投資家は「優先出資者」となり、利益が優先して分配されます。一方、運用によって損失が生じた場合は「劣後出資者」となる事業者の出資分から負担することになります。

  • 利益が発生した場合:投資家が優先して受け取る
  • 損失が発生した場合:事業者が優先して損失を被る

このように、損失は事業者の出資分から優先して補填されるため、損失が劣後出資の範囲内であれば投資家の元本は守られることになります

優先劣後割合は10~30%が目安

不動産クラウドファンディングの優先劣後割合は事業者やファンドによって異なりますが、多くは10~30%程度に設定されています

以下で優先劣後割合が30%に設定されている場合の計算例を見てみましょう。

  • 物件取得価格:5,000万円
  • 優先劣後割合:優先出資70%(3,500万円):劣後出資30%(1,500万円)

上記の場合、3,500万円が投資家の出資額(優先出資)となり、実際にファンドで募集される金額がこの額に当たります。そして、事業者が出資する額(劣後出資)が1,500万円です。

仮にファンドの運用で損失が出たとしても、まず劣後出資から損失を負担するため、1,500万円以内の損失であれば投資家の元本は守られます。もし2,000万円の損失が生じた場合は、1,500万円を超えた500万円分が投資家の出資分から負担することになります。

なお、すべてのファンドに優先劣後方式が採用されているわけではありません。採用の有無は事業者やファンドによって異なります。リスクを下げたい場合は、事前にファンドの詳細をしっかりと確認しておきましょう。

優先劣後方式のメリット

優先劣後方式を採用しているファンドに投資する主なメリットは、次の3つです。

  1. 元本割れのリスクを抑えられる
  2. 分配金を受け取りやすい
  3. 事業者との利益相反が少ない

それぞれ詳しく見ていきましょう。

1.元本割れのリスクを抑えられる

優先劣後方式は事業者の出資分から優先して損失補填されるため、投資家の元本割れリスクを下げられます。不動産投資におけるリスクは不動産クラウドファンディングにも同様にあります。物件の価格変動や空室の発生、災害等による予期せぬ修繕費用の発生など、そのリスクはさまざまです。

優先劣後方式を採用しているファンドでは、一定の割合まで事業者が負担するため、投資家にとっては大きな損失を避けられる可能性が高まります。

2.分配金を受け取りやすい

優先劣後方式を採用しているファンドでは、仮に運用によって想定より利益が少なくなった場合でも、まず投資家から優先して利益が分配されます。

分配金は「賃料収入」と「売却益」の2種類に大別されますが、どちらも予想外の収益減少が発生する可能性はゼロではありません。しかし、優先劣後方式を採用していれば、利益が少なくなっても投資家への分配が優先され、利益を受け取れる権利が保全されます。

3.事業者との利益相反が少ない

投資家と事業者が共同出資をする優先劣後方式は、利益の相反が生じにくくなります。投資家の損失が事業者の利益になる仕組みのファンドは、運用が雑になる可能性もあるでしょう。また、事業者が優先して利益を受け取る仕組みのファンドは、投資家に利益が回らないような運営をされる恐れもあります。

しかし、優先劣後方式は事業者の出資金から優先して損失補填されるため、事業者は損失が生じないように全力で運用することになります。

優先劣後方式の注意点

優先劣後方式の注意点

「優先劣後方式があるから損失の心配はない」と安心しきってはいけません。以下のような注意点があることに留意しましょう。

  1. 優先劣後割合が多いと投資家の出資枠が減る
  2. 優先劣後割合はファンドによって異なる

それぞれ詳しく見ていきます。

1.優先劣後割合が多いと投資家の出資枠が減る

優先劣後方式の出資枠は投資家と事業者で分けるため、劣後出資が大きくなるほど投資家の出資枠が小さくなります。劣後出資割合が大きいほど投資家の元本割れリスクが下がりますが、このようなファンドは競争率が高くなり、投資をするチャンスが減る可能性があります。

また、中には劣後出資割合が50%を超えるようなものもありますが、一般的な運用期間である1年前後で価値が50%以上毀損するということは可能性としては低く、そのような場合は出資枠が減るデメリットのほうが大きいともいえます。価値下落リスクは運用期間が長くなるほど高くなるため、設定されている運用期間と併せて適正な劣後出資割合かどうかを確認するとよいでしょう。

2.優先劣後割合はファンドによって異なる

優先劣後割合はファンドによって異なります。割合は事業者が自由に決められるため、事前に出資割合を確認しておきましょう。

事業者のWebサイトの優先劣後方式の説明で「劣後出資比率30%」という記載があっても、すべてのファンドが30%とは限りません。実際の割合は各ファンドで異なります。中には劣後出資割合が10%以下のファンドもあるため、事前に優先劣後割合を確認するようにしましょう。

事業者はなぜ優先劣後方式を採用するのか?

こうして見ていくと、優先劣後方式の採用は投資家にとって非常にメリットの大きい仕組みであることがわかります。一方のサービス事業者にとっては、利益を投資家に優先的に分配する必要があったり、損失があった際はまず損失を負担しなければならなかったりと、デメリットしかないように見えます。

それでも事業者が優先劣後方式を採用する理由とはなんでしょうか?最大の理由は、優先劣後方式を採用したほうがお金を集めやすいからです。

不動産クラウドファンディングでは、投資家は自分で不動産を選んで買うわけではなく、管理・運用も事業者任せになります。それ自体はメリットですが、反面、運用のリスク管理を事業者に丸投げすることでもあります。投資家はリスクとリターンを天秤にかけて投資を行うため、「リスク対策を講じられない=リスクが見合わない」となり、投資をためらうことになります。

そのため、万が一の際の適切なリスク対策として優先劣後方式を採用することで投資家に安心感を提供し、資金を集めやすくしているのです。

無事に運用できれば事業者にデメリットはない

優先劣後方式は、事業者にとっては不利な内容に見えますが、実際には問題なく運用できれば特にデメリットにはなりません。運用で想定した利回りを確保できれば事業者にも損はなく、仮に想定を上回った場合はそのぶんを利益とすることもできます(中には上振れた利益を投資家に配分する事業者もあります)。反対にいえば、事業者としては利益を確保していく必要があるため、劣後出資をしたぶん想定利回りを下げる(事業者側の損失リスクを押さえる)という意識が働く可能性もあります。

不動産クラウドファンディングに安心して投資するためのポイント

不動産クラウドファンディングに投資する際のチェックポイント

優先劣後方式の有無のほかにも、不動産クラウドファンディングを選ぶ際には注意したいポイントがいくつか存在します。

  1. 想定利回り
  2. 最低投資金額
  3. ファンドの詳細情報
  4. サービス事業者の実績

それぞれ詳しく見ていきましょう。

1.想定利回り

不動産クラウドファンディングのリスクを測る上でもっとも簡単でわかりやすいのが、利回りです。さまざまな投資にいえることですが、基本的に利回りとリスクは比例します。高利回りのファンドには、それなりのリスクがあることを頭に入れておく必要があります。

例えば、不動産クラウドファンディングには賃料収入を配当原資とするインカムゲイン型ファンドと、不動産の売却益を配当原資とするキャピタルゲイン型ファンドがありますが、一般的にはキャピタル型のほうが利回りが高くなる傾向があります。

インカム型は安定的な収益が見込める一方で、キャピタル型は想定金額で売れないリスクや売却先が見つからないリスクなどがあるためです。ただし、そのぶん、大きな利益を得やすいのがキャピタル型のメリットとなります。

不動産クラウドファンディングにおいては、だいたい5〜6%あたりが高利回りかどうか基準となります。年利換算7〜8%は相対的に高利回りであるといえ、3〜4%であれば堅実な利回りであるといえます。

2.最低投資金額

多くの不動産クラウドファンディングは最低1万円から、以降1万円単位で投資が可能ですが、中には最低投資金額が10万円のものもあります。その場合でも、以降1万円単位で出資可能なものと10万円単位で出資可能なものがあります。

特に投資初心者にとっては、最低投資金額が大きいと投資のハードルになります。万が一のリスク軽減のためにもまずは少ない金額で始められるほうが安心です。また、同じ10万円を投資するにしても、1つのファンドに10万円を入れるよりも複数のファンドに細かく投資したほうがリスク分散になるでしょう。

3.ファンドの詳細情報

ファンドの詳細情報も必ずチェックしておきましょう。特に重要なのは対象不動産があるエリアです。

賃貸にしても売却にしても、そのエリアに不動産需要があるかが不動産の価値をもっとも左右するためです。首都圏の駅近物件は、特に居住用マンションではニーズが高く、オフィスビルでも同様の傾向があります。その他、地方の不動産でも自分に土地勘のある場所であれば需要の評価がしやすいでしょう。

なお、人気エリアの物件は取得価格が高くなるため一般的には利回りが低くなりがちです。郊外であれば、高利回りの物件も出やすくなりますが、リスクも上がっていきます。そのため、自分が取れるリスクも考えながら選ぶようにしましょう。

また、情報が公開されていて確認可能な場合は、物件の用途や築年数、管理状態なども詳しく見ておきましょう。物件の情報があまり開示されていない事業者は、リスク評価が難しくなるため利用は消極的になったほうが無難です。

4.サービス事業者の実績

サービス事業者のファンド運用実績や過去の償還実績も確認しておきましょう。償還遅延や行政処分を受けた履歴はないかの確認も重要です。

また、事業者の得意分野を確認しておくことも大切です。安定した経営と豊富な知識は、投資家のリターンと安全性に直結します。また、長期的なパートナーシップを築けるかどうかにも関わってきます。

不動産クラウドファンディングは優先劣後方式の有無を確認しよう

不動産クラウドファンディングにおける優先劣後方式について解説しました。

優先劣後方式は、不動産クラウドファンディングに投資する上でのリスク軽減に大きく役立ちます。まずは、投資を検討しているサービス事業者で採用されているか、次に各ファンドでの劣後出資割合を見るようにしましょう。一般的に、劣後出資割合が高いほど、投資家の元本割れリスクを軽減できます。

なお、事業者によっては投資家登録をしなければ情報が見られないケースもあるため、このあたりもチェックしておくとよいでしょう。

無理のない投資をするためにも、さまざまな不動産クラウドファンディングを比較して、自分の目的とリスク許容度に適しているファンドを選択するようにしましょう。

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  • 記事を書いた人 ゴクラクJOURNAL編集部

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