過去最大級の返済遅延トラブル「グリーンインフラレンディング事件」を徹底解説
公開日 2024/03/11
最終更新日 2024/03/11
ソーシャルレンディング投資で思わぬ損失を被らないためには、過去の事例を知り、リスクに備えることが重要です。今回は、2018年に発生し訴訟にまで発展した「グリーンインフラレンディング事件」について解説します。
筆者:中田健介(投資家・実業家・ブロガー) |
IT系企業に勤務する傍ら、2010年からソーシャルレンディングでの資産運用を開始。同時にブログ「けにごろうのはじめてのソーシャルレンディング日記」を開設。 著書に「年利7%! 今こそ『金利』で資産を殖やしなさい!~日本初! 融資型クラウドファンディング投資の解説書」(ぱる出版)がある。 |
グリーンインフラレンディングとは
「グリーンインフラレンディング」は、株式会社グリーンインフラレンディングが2016年9月に開始した、再生可能エネルギー事業に特化したソーシャルレンディングサービスです。サービス終了時点での会員数は約7400人・成立ローン総額は約200億円でした。
「グリーンインフラレンディング」のサービス運営・匿名組合出資契約の募集の取扱い(取得勧誘)・投資家の管理は、第二種金融商品取引業の登録を受けていたmaneoマーケット株式会社が手掛けていました。
なお2016年当時、maneoマーケット株式会社は、「グリーンインフラレンディング」のほか、「maneo(マネオ)」「LCレンディング」「ガイアファンディング」など、多くのソーシャルレンディングサービスの運営を手掛けていました。
グリーンインフラレンディングのサービス内容
「グリーンインフラレンディング」は、太陽光・水力・バイオマス発電などのグリーンエネルギー(再生可能エネルギー)事業を投資対象とするソーシャルレンディングサービスを行っていました。株式会社グリーンインフラレンディング代表の中久保正己氏は、もともと兵庫県庁に勤務しており、阪神大震災の際には避難所の運営を担当しました。そのとき、電気が来ないため施設や冷蔵庫が使えないといった事態を経験し、防災とエネルギーの問題に強い関心を持ったそうです。
それをきっかけに31歳のときに独立し、太陽光・風力・水力、バイオマス、海洋水温度差などさまざまな再生可能エネルギー施設の開発・運営を手掛ける株式会社JCサービスを立ち上げました。当初は資金を「maneo」で調達していましたが、やがてmaneoマーケットの協力を得て自ら「グリーンインフラレンディング」を立ち上げました。
グリーンインフラレンディングの融資先企業
グリーンインフラレンディングの融資先企業はほとんどが、株式会社JCサービスという、再生可能エネルギーの発電システム設計・開発などを手掛ける企業でした。株式会社グリーンインフラレンディングは、このJCサービスの子会社であり、そもそも「グリーンインフラレンディング」は、JCサービス社が資金調達するために作られたサービスだったといえます。資金用途は、新規の発電施設の建設費用や、既存の施設の改善のための費用とされていました。
超高利回りを謳い集客
「グリーンインフラレンディング」で募集されたファンドの年換算利回りは平均12%以上で、当時すべての事業者の中でもっとも高い水準でした。その高い利回りは投資家にとって大変魅力的で、「グリーンインフラレンディング」のファンドは募集されるとすぐに完売となっていました。グリーンインフラレンディング事件の経緯
「グリーンインフラレンディング」の運用において、具体的にどのようなトラブルが発生したのか、経緯を詳しく説明していきます。資金の不適切な運用の疑い
2018年6月、NHKをはじめとする各報道機関が、「JCサービス社が投資家から集めた資金の一部を再生可能エネルギー事業以外に使うなど、事前の説明とは違う不適切な形で運用していた疑いがある。証券取引等監視委員会は、融資先の審査や投資家の勧誘方法などに金融商品取引法に違反する行為がなかったかどうか、調査を進めている。」
と報じました。
maneoマーケット社によるグリーンインフラレンディングの償還・分配実施の留保
2018年6月、maneoマーケット社は、「グリーンインフラレンディング」におけるファンド募集業務および新規の投資家登録を停止すると発表しました。その理由として、「JCサービス社において事前の説明とは異なる使途に一部資金が使用された疑いがあることが判明したため。」と説明しました。また、同年7月には、maneoマーケット社は「グリーンインフラレンディングの返済原資に確認を要する事項がある」との判断により、当面の間、投資家に対する償還及び分配の実施を留保すると発表しました。当然この措置は「グリーンインフラレンディング」の投資家の間に大いに混乱を招くこととなりました。これに対し、maneoマーケット社は同7月に「グリーンインフラレンディング」投資家向けの説明会を開催しました。
この説明会の中で、この時点で「グリーンインフラレンディング」で運用中の金額は、7月の償還分を除いて約127億円であると回答。8月には、グリーンインフラレンディングの全ファンドにおいて返済遅延の状態となりました。これについては、最終資金需要者であるJCサービス社により、返済原資となる開発案件等の売却が行われていないことが原因とされました。
maneoマーケット社に対する行政処分
2018年7月、maneoマーケット社に対して関東財務局から行政処分が下されました。処分理由は、「グリーンインフラレンディング」に関する以下の2点の問題点です。1.ファンドの取得勧誘に関し、虚偽の表示をした行為
JCサービス社において、入金されたファンド資金をウェブサイト上で表示した出資対象事業と異なる事業等へ支出している事例が多数認められた。maneoマーケット社は、取得勧誘を行ったファンドのウェブサイト上の資金使途の表示と実際の資金使途が同一であるかについて確認せず、事実と異なる表示のまま取得勧誘を継続している。この結果、当社は、ファンドの取得勧誘に関して、虚偽の表示を行っているものと認められる。
2.maneoマーケット社の管理上の問題点
maneoマーケット社は、ファンド資金の使途等の確認をJCサービス社の関係会社に一任し、資金管理の実態や資金の使途を把握できる管理態勢を構築していない。ーーこれらの理由により、maneoマーケット社に対して発生原因の究明、改善対応策の策定、顧客への説明などの業務改善命令が下されました。
maneoマーケット社に対する投資家の集団訴訟
2019年3月に、投資家54人と法人3社がmaneoマーケット社、グリーンインフラレンディング社、JCサービス社などを相手取り、計約11億円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしました。maneoマーケット社によるグリーンインフラレンディング社破産申し立て
maneoマーケット社は、資金を回収するため、2021年3月に東京地方裁判所に対し、グリーンインフラレンディング社の債権者破産申し立てを行いました。これを受けて、2021年4月、グリーンインフラレンディング社の破産手続きが開始されました。2022年と2023年には、「グリーンインフラレンディング」の破産管財人である弁護士により、投資家に対する中間配当が行われました。いずれも配当率は8%でした。
高いリターンの裏には高いリスクがあることを肝に命じよう
再生可能エネルギー特化型ソーシャルレンディング「グリーンインフラレンディング」周辺で発生したトラブルについて詳しく解説しました。「グリーンインフラレンディング」において発生した返済遅延金額は約127億円で、これは日本のソーシャルレンディングの返済遅延・デフォルト金額としては最大規模で、現在でもその大半は投資家に対して返還されていません(ちなみに、私個人としてもグリーンインフラレンディングに対して54万円を投資しており、そのほとんどは現在でも返ってきていません)。
グリーンインフラレンディング事件は、当時業界最大手であったmaneoグループの1社が起こした事件として、ソーシャルレンディング業界のみならず社会に大きな衝撃を与えました。
「グリーンインフラレンディング」は、平均年利回り12%といった非常に高い利回りを謳って投資家から短期間で多くの資金を集めていました。ソーシャルレンディングや不動産クラウドファンディングで投資を行う人は、高い利回りだけに目を奪われることなく、募集内容の確認や分散投資といった投資の基本をあらためて認識いただくことを強くおすすめします。
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