ソシャレン業界激震・みんなのクレジット事件を解説。白石伸生氏の現在は?

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ソーシャルレンディングで発生した「みんなのクレジット事件(みんクレ事件)」をご存知でしょうか。これはソーシャルレンディングで集めたお金が実際には投資されずにサービス運営会社の親会社の赤字補填などに使用され、投資家には貸したお金が返ってこなかったという事件です。

総額30億円以上もの貸付金が返済されなかった事件とあって、ソーシャルレンディング業界にも大きな影響を及ぼすことになりました。そこで今回は、「みんなのクレジット事件」の概要とその問題点を詳しく解説するとともに、ソーシャルレンディングを利用した投資ではどのような点に注意すべきかを説明します。これからソーシャルレンディングを利用する方は投資に対するリスク管理のためにもぜひ参考にしてみてください。

みんなのクレジット事件(みんクレ事件)とは

みんなのクレジット事件(みんクレ事件)とはまずは「みんなのクレジット」というサービスと、「みんなのクレジット事件」の全体像について説明します。

ソーシャルレンディングサービス「みんなのクレジット」とは

「みんなのクレジット」は、「株式会社みんなのクレジット(代表・白石伸生)」が運営していたソーシャルレンディングサービスです。

ソーシャルレンディングは、別名・貸付型(融資型)クラウドファンディングとも呼ばれ、不特定多数の投資家から集めた資金を別の企業などに融資する仲介サービスのことを指します。融資を受けた企業は金利を上乗せする形で借りたお金を返済し、投資家は出資した分に応じて利息を得ることができます。

 「みんなのクレジット」がソーシャルレンディングサービスを開始したのは2016年4月のこと。年利換算で最大14.5%の高利回りとキャッシュバック、有担保の投資案件のみを扱っていることなどで人気となり、合計で40億円を超える資金を集めました。

「みんなのクレジット事件」の全体像

こうして集めた資金のうち約10億円は投資家への償還に使われましたが、約31億円は償還が滞り、未償還の状態となりました。そんななかで、株式会社みんなのクレジットは、入札方式による債権譲渡を模索。結果、9,660万円で債権回収会社への譲渡を決定し、本来償還されるはずだったお金は約3%まで大幅に減額することとなりました。

そして、投資家は株式会社みんなのクレジットに対して集団訴訟を起こしました。これが「みんなのクレジット事件」の概要です。

「みんなのクレジット事件」の流れ

みんクレ事件の大まかな流れを以下に記します。
2015年5月21日 株式会社みんなのクレジット(代表・白石伸生)設立
2016年4月 「みんなのクレジット」のサービスを開始
2016年11月 累計ローン成立総額(融資額)が15億円を突破
2016年11月末 親会社が資本金2億円へ増資
2017年3月 証券取引等監視委員会より勧告。以下を問題点として指摘される
・貸付先について誤解を生じる表示
・担保について誤解を生じる表示
・ファンドの償還資金にほかのファンド出資金が充当されている
・キャッシュバックキャンペーンにファンド出資金が充当されている
・ファンド出資金を代表の借入れ返済等に使用している
・グループ会社の増資にファンド出資金が充当されている
・ファンドからの借入れの返済が困難な財務状況である
参考:株式会社みんなのクレジットに対する検査結果に基づく勧告について|証券取引等監視委員会
2017年3月30日 関東財務局より行政処分→同年4月29日まで業務停止
2017年4月29日 みんなのクレジットの代表取締役が創業者白石伸生氏から阿藤豊氏に交代
2017年4月30日 金融商品取引業の自主的な休止を開始
2017年7月 投資家への償還が停止
2017年8月2日 東京都産業労働局より業務停止処分・業務改善命令を受ける
2017年8月9日 みんなのクレジットがすべての業務を停止
2017年8月 投資家が直接回収行動の開始を発表
2017年9月 投資家がみんなのクレジットに対して損害賠償請求訴訟を提起
2017年12月 みんなのクレジットが貸付先の「テイクオーバーホールディングス(代表・白石伸生)」に貸付金返還請求訴訟を提起
2018年2月 貸付先3社が債務不履行となり約31億円の債権を債権回収会社に9,660万円で譲渡
2018年3月 株式会社みんなのクレジットが「スカイキャピタル」に社名変更
2019年2月 投資家22人がみんなのクレジットに対し約1億円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴
2020年6月30日 東京地裁がみんなのクレジットに、投資家に対して約1億円全額の支払いを命じる判決
2021年7月 投資家22人の全面勝訴が確定

「みんなのクレジット事件(みんクレ事件)」の問題点

「みんなのクレジット事件(みんクレ事件)」の問題点「みんなのクレジット事件」では何が問題だったのか、あらためてチェックしていきましょう。

1.「匿名化」を悪用し、貸付先を親会社・関連会社に集中

ソーシャルレンディングには、その特有のスキームゆえに「匿名化・複数化」というルールがあります。これは、「投資家を貸金業者とみなさないため(貸金業法に抵触しないようにする)には、貸付先の情報を不透明にしておく必要がある」というものです。「みんなのクレジット」は、貸付先を投資家に明示しなくてよいことを逆手に取り、自社の親会社や関連会社に集中して貸付を行っていました。

特に当時のソーシャルレンディングでは、投資家は融資に関する詳細を把握するのが難しく、みんなのクレジット事件のようなことが起こることを事前予測するのは難しいことも問題だったと言えます。

2.ファンドの償還資金を別のファンドの出資金から充当

さらに、「みんなのクレジット」では投資家へのキャッシュバックキャンペーンの原資として、ファンド出資金を充当していたことが発覚。さらに、投資家に償還すべき返済金も、実際にはほかのファンドで集めた資金のうち償還期限が来ていない資金で充当していました。運用で増やしたお金ではなく出資金をそのまま償還するという、いわゆる「ポンジ・スキーム」と呼ばれる詐欺手法のような方法で、ずさんな運用を行っていたのです。

3.担保の説明が不明瞭

「みんなのクレジット」では、投資家に向けた契約締結前交付書面にて、貸付先から不動産もしくは有価証券の担保を原則として受け入れているとしていました。そして返済が滞れば担保権を実行し、貸付金の回収を図る仕組みになっていました。しかし実際は貸付先のほとんどが、株式会社みんなのクレジットの親会社およびそのグループ会社であり、設定されていた担保のほとんどは同社の親会社が発行する未公開株式であったことが発覚しています。

さらには、そもそも担保設定されていない案件までありました。未公開株式は流動性が低いことに加えて、株式会社みんなのクレジットの親会社に問題が生じた場合、発行している未公開株式の価値も大きく毀損することが予想されます。そのようなリスクを開示することなく資金を集めていたことも、みんなのクレジット事件の大きな問題だと言えます。

4.親会社は債務超過の状態にあった

「みんなのクレジット」で集めた資金の最大の貸付先である親会社・株式会社ブルーウォールジャパンは、2016年5月末から11月末の間、多額の損失を出し続けていました。そして同年8月末から10月末の間は債務超過の状態であったことがわかりました。「みんなのクレジット」がサービスを開始したのは同年5月であり、債務超過であった親会社は同年11月末に増資を行い債務超過を解消しています。

「みんなのクレジット」がサービスを開始した同年5月以降は、親会社がファンドから毎月多額の資金を借り入れており流動資産を大きく上回る状況となっていました。このようにファンドから借り入れた短期借入額の総額は親会社の流動資産を大きく上回る状態となり、この貸付けの返済が滞る可能性が高かった認識が当時からあったと考えられます。

みんなのクレジット事件の結末

みんなのクレジット事件の結末みんなのクレジット事件は最終的にどのような結末になったのかを説明していきましょう。

投資家が集団訴訟→投資家側が勝訴したが資金は戻らず

2017年にはみんなのクレジットで融資をした投資家22人が集団訴訟を起こし裁判になりました。東京地裁と最高裁はともに投資家22人の主張どおりにおよそ1億円の損害賠償請求を認め、2021年7月に投資家側の全面勝訴が確定しています。しかし投資家22人はおよそ1億円の支払いを受けていません。

2021年12月にみんなのクレジット元社長から「破産申し立てをするか賠償金の10%支払いで和解するか」の選択を求める考えが示されました。これは約1億円を支払う原資がないためです。裁判を起こした投資家たちは弁護士に支払う費用などすでに相当額の出費をしており、破産の申し立てにはさらに費用がかかります。

よってこの和解策を受け入れざるを得ない状況となったわけですが、その賠償金の10%にあたるおよそ1,000万円も、2023年6月現在では支払いが完了していない模様です。

ソーシャルレンディングの仕組み自体が見直される契機に

みんなのクレジット事件をはじめソーシャルレンディングに関する問題が続発したことにより、その仕組みを見直す動きが出るようになりました。2018年12月には証券取引等監視委員会が金融庁に対し、「投資家保護の観点から適切な投資判断を行うための情報提供や説明内容の拡充」などを求めました。

それを受けて金融庁は2019年3月にソーシャルレンディングの募集において、「一定の要件を踏まえれば匿名化・複数化が不要」になる(貸付先の情報を開示しても資金提供者は貸金業とは認めない )との認識を示しました。それまでは貸付先を特定するような情報開示は投資家に貸金業者としての登録義務が発生するとの解釈がありましたが、これが不要であるとしたのです。

ただし、「詳細を明示しなければならない」ではなく「匿名化しなくてもよい」なので、依然匿名のまま募集しているサービスも存在しているのが現状です。

事件以降、ソーシャルレンディングは規制強化へ

これまでは投資家が貸金業に該当する可能性があるとして貸付先の情報を開示していませんでしたが、金融庁が投資家は貸金業には該当しない認識を示したことで貸付先の情報開示をしてもよいということになりました。この際の情報には具体的に次の内容が含まれます。
  • 貸付先の属性
  • 貸付条件
  • 資金用途
  • 回収可能性に影響を与える要素
  • 貸付債権の管理、回収方針、態勢
  • 借換えに関する情報
  • 返済遅延などに関する情報
さらに金融庁は2022年6月21日にソーシャルレンディングの規制強化方針を決定しました。サービス運営会社に対して、融資対象の事業内容を事前調査し、その情報を顧客へ提供することを義務付ける方針です。 

みんなのクレジット代表・白石伸生氏の現在は?

株式会社みんなのクレジットの代表・白石伸生氏ですが、2023年7月12日、新規暗号資産(仮想通貨)発行を名目として美術品販売会社から1億5,000万円を詐取したとして、他2名の容疑者とともに逮捕されたいう報道がありました。

報道によると、白石氏らは「300億円規模の資金調達をする。流通すれば利益が出る」「美術品を担保にするため価値は下がらない」などと説明して新規の暗号資産発行を持ちかけ現金を詐取したとのこと。「みんなのクレジット事件」以後も常習的に詐欺的行為を行っていたことになります。

2023年8月には行政処分も

白石伸生氏が代表を務めていた株式会社みんなのクレジット改め株式会社スカイキャピタルは、第二種金融商品取引業について、①事業年度ごとの事業報告書の提出義務を果たしていないこと、②白石氏の法令遵守意識の著しい欠如、音信不通など業務遂行のための体制が確保されれいないことから、財務省・関東財務局より正式に行政処分が下っています。

処分内容は大きく2点で、1つは関東財務局長(金商)の登録取り消し、事業報告書を始めとする業務改善命令、また未償還ファンドに関する投資家への保護措置の実施などです。

参照:株式会社スカイキャピタルに対する行政処分について|関東財務局

ソーシャルレンディングに安全に投資する方法4つ

ソーシャルレンディングに安全に投資する方法4つみんなのクレジット事件を教訓にして、ソーシャルレンディングで安全に投資するための4つのポイントを押さえておきましょう。

1.運営会社の信頼性・運用実績を確認する

まずはファンドを扱うソーシャルレンディングの運営会社について確認しておきましょう。特にこれまでの運用実績や償還・分配金支払いの遅延の有無といった情報は把握しておくことが大切です。金融庁の登録業者であっても、金融庁や財務局が業者の信用力を保証しているわけではありません。よって金融庁でも、運営会社に関する情報はできる限り入手し確認することを推奨しています。

2.ファンド情報を確認する

各ファンドでの貸付先情報は、いまだ「必ずしも開示する必要がない」状況ではありますが、ちゃんと開示している事業者も多くあります。投資家としては、開示されている方が安心して投資できる、ということになりますので、集めた資金の貸付先情報は必ずチェックしておきましょう。

3.利回りだけを判断基準にしない

ソーシャルレンディングのファンドは想定利回りを開示していますが、これはその利率を保証するものでは決してありません。また投資においては、一般的に高い利回りは相応のリスクが含まれます。利回りだけを判断基準にせず、貸付先やプロジェクト内容のほか、運用期間など総合的にリスクを判断しながら投資先を選ぶようにしましょう。

4.投資資金を1箇所に集中させない

ソーシャルレンディングは高い利回りの代わりにリスクもあります。そのため1つのファンドに資金を集中させず、複数の案件、あるいは他の投資商品などに分散投資するように心がけましょう。これは投資全般に言えることですが、たとえどれか1つの投資先で損失が生じたとしても、ほかの案件による利益で損失補填できるよう、リスク分散することが大切です。

みんなのクレジット事件を参考にソーシャルレンディングの活用ポイントを押さえよう

みんなのクレジット事件では、投資家はファンドに関する詳細な情報を得られなかったことが、そもそも問題の原因であったと考えられます。

現在は貸付先の情報を開示することが可能となっており、今後、サービス事業者にはさらなる情報開示が求められる可能性もあり、投資家にとっては安心感の向上が期待できそうです。

もしこれからソーシャルレンディングでの投資を考えている人は、サービス事業者の情報やファンド情報を必ず確認すること、また複数の投資先に資金を分散してリスク管理を徹底することに気をつけることを強くおすすめします。

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  • 記事を書いた人 ゴクラクJOURNAL編集部

    『ゴクラクJOURNAL』は、不動産クラウドファンディングやソーシャルレンディング、事業型ファンドといった少額投資ファンドに関する情報や、投資・お金、その他ファイナンシャルテクノロジーに関する情報を提供しています。編集部では、投資初心者の目線に立ったユーザーファーストのメディア運営を目指しています。

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