SBIソーシャルレンディング事件とは?経緯・あらましを解説
公開日 2024/02/20
最終更新日 2024/02/20
今回はその中でも特に大きな事件の1つ「SBIソーシャルレンディング事件」について詳しく解説していきます。
SBIソーシャルレンディングとは
「SBIソーシャルレンディング」は、SBIグループの1社であるSBIソーシャルレンディング株式会社が2011年3月に開始したソーシャルレンディングサービスです。国内のソーシャルレンディングサービスとしては、「maneo(マネオ)」「AQUSH(アクシュ)」に次いで3番目に生まれました。「SBIソーシャルレンディング」は人気のサービスとなり、2020年度の融資額は約390億円で、当時融資額では国内最大のソーシャルレンディングサービスにまで成長しました。2021年3月末時点では、会員数約62000人・累計融資総額は約1693億円にまで達しています。
しかしその直後、2021年5月24日付でSBIソーシャルレンディング株式会社は廃業と事業撤退を発表し、2022年3月には運用中のすべてのファンドにおける投資額全額を償還しました。
SBIソーシャルレンディングのサービス内容
「SBIソーシャルレンディング」が提供するファンドは、おもに「不動産担保ローン事業者ファンド」「オーダーメイド型ローンファンド」の2種類でした。不動産担保ローン事業者ファンドは、決められた数社の不動産事業者に対して毎月決められた額の募集を行うファンドで、基本的に常時募集されていました。これに対してオーダーメイド型ローンファンドは、資金の借り手となる企業を個別に探して審査し、案件が発生するごとにファンド募集をかけるものでした。
2021年3月末時点では、このオーダーメイド型ローンファンドが融資残高の88.4%を占めるまでになっていました。
SBIソーシャルレンディング事件の経緯
SBIソーシャルレンディングは大きな成長を遂げていきましたが、その背景にはある事業者への巨額の融資がありました。そして、その融資金が本来の借入使途以外で使われていた疑惑が発覚し、その後の信用の失墜につながっていきます。ここではその経緯について解説していきましょう。
融資先事業者「A社」について
まず、SBIソーシャルレンディング事件に大きくかかわっているA社について説明する必要があります。A社は太陽光発電や不動産事業などを手掛ける企業で、B社から紹介を受けて2017年5月からSBIソーシャルレンディングでオーダーメイド型ローンファンドを継続的に募集していました。A社関連ファンドのビジネススキームには、大きく「発電所案件」と「不動産案件」が存在しましたが、2017年5月から2020年10月までの間にA社関連として合計39ファンド、383億9,595万円が募集および融資されています。
「SBIソーシャルレンディング」全体の融資残高に占めるA社関連ファンドの融資残高の割合は2017年3月時点では0%でしたが、その後急拡大し、2018年3月時点で32.1%、2019年3月時点で43.8%、2020年3月時点で43.8%、2021年1月時点で39.2%と大きく膨れ上がっています。
A社関連ファンドのうち、問題ありと認められたファンド
当事件の事後、第三者委員会による調査が行われていますが、その報告書の中でA社関連ファンドのうち問題があると認められたのが以下のファンドです。1.太陽光発電所案件
10件の太陽光発電所案件(メガソーラーブリッジローンファンド17、18、20、24、25、26、29、31、32、33号)において問題ありと認めらています。これらのファンドは、募集した資金をA社が設立したSPC(特別目的会社)などに貸し付けるものでした。概要は以下の通りです。
募集時期 | 2018年11月~2020年10月 |
募集金額(合計) | 122.7億円 |
運用期間 | 10~24カ月 |
資金使途 | 太陽光発電施設の開発 |
しかし、これらの開発は計画通りに進まず、実際にはいずれの工事も完成には至りませんでした。一部のファンドについては、B社が管理する合同会社がSPCの社員持分を買い取り、この買取代金が原資となって貸付金が返済されました。
2.不動産案件
9件の不動産案件(不動産ディベロッパーズローンファンド9、10、11、12、13、14、16、17、20号)において問題があると認められています。これらのファンドも、募集した資金をA社が設立したSPCなどに貸し付けるものでした。概要は以下の通りです。
募集時期 | 2018年11月~2020年5月 |
募集金額(合計) | 84.6億円 |
運用期間 | 17~30カ月 |
資金使途 | 不動産取得資金および建物の建築資金 |
これらの開発は計画通りに進まず、実際にはほとんどの案件で工事は完成には至りませんでした。1件のプロジェクトは途中で工事がストップしてしまい、4件のプロジェクトでは着手すらされずに終わっています。
また、12号においては当初計画から大幅に遅延したものの工事は完成しています。しかしながら、この計画での経費は総額4億円が見込まれていましたが、それに対して工事請負契約に基づいてA社に送金された代金は2.6億円に留まり、結果大幅な赤字となっています。
資金使途違反
A社関連の貸付先SPCによる資金使途の中には、プロジェクトにおける当初の資金計画にない支払いや、ほかのファンドのSPCにおいて「SBIソーシャルレンディング」への利息支払い金に充てられた可能性が高い支払いなども含まれていました。そして、問題があると認められた上記計19ファンドに対する融資額207.3億円のうち、62.4%にあたる129.3億円が資金使途違反と認められました。
SBIソーシャルレンディングで問題が発生した原因
これら一連の問題の原因として、第三者委員会は以下の点を指摘しています。1.プロフェッショナリズム・投資家保護意識の著しい欠如
ソーシャルレンディング事業者は投資家から資金を預かっている以上、投資家保護のための高度な注意義務を負う必要があります。しかし、「SBIソーシャルレンディング」においては、審査・モニタリング体制の不備があった上、不合理な融資判断が繰り返されており、プロとしての自覚が欠如しているといった批判やそしりは免れるものではありません。
2.経営トップの営業優先・過大な収益目標の設定
SBIソーシャルレンディング株式会社は、2018年12月頃から本格的な上場準備を開始していました。そのため、2021年3月期には売上高目標11.1億円、営業利益目標4.0億円という前年度よりもかなり高い目標値を設定していました。しかし2020年6月末時点で営業利益実績は約0.1億円程度と、目標を大きく下回っていました。そのため経営トップは、第2四半期の営業利益目標を大幅に引き上げ2億円とし、これを社員一丸となって達成する号令を発していました。
この目標を達成するための安易な方策として、A社への大型案件に厳格な審査を行わずに取り組むことになりました。
3.審査・モニタリング体制の欠陥
「SBIソーシャルレンディング」においては、ファンドの組成を担当する商品開発部が貸付審査も合わせて担当していました。これは貸金においてもっとも重要な融資審査において、基礎的な専門スキルを持つ人材を配置していなかったことを意味します。組織としての与信審査能力が不十分であり、客観的・中立的な貸付審査機能が働いていなかったのです。
さらに、A社関連ファンドの担当者は1人しかおらず、その担当者が案件組成の検討・対外折衝・審査・モニタリングすべてを行っていました。そのため常に目の前の業務をこなすことに精一杯で、モニタリングが十分にできていませんでした。
SBIソーシャルレンディング事件、その後の経過
これら一連の問題が発覚した後の経過は以下の通りです。1.関係者の処分
第三者委員会の報告を受け、「SBIソーシャルレンディング」は2021年4月、取締役で前代表取締役社長であった織田貴行氏を解任し、取締役副社長であった渡部一貴氏を取締役に降格しました。2.投資家への未償還元本相当額の償還
「SBIソーシャルレンディング」は2021年4月、A社関連の未償還元本相当額についてSBIグループとして補填することを発表し、後日実行しました。投資家への損失補填は法律によって原則として禁止されていますが、今回は事故によるものとして認められました。この措置により結果的に投資家の損失は避けられ、またSBIグループは特別損失として145億円を計上しました。なお、この年のグループ全体の税引前利益は1403億円でした。
3.関東財務局による行政処分
第三者委員会の報告を受けて、関東財務局は「SBIソーシャルレンディング」に対して2021年6月に行政処分を行いました。重大な問題と認められたのは、以下の点です。- ファンドの取得勧誘に関し、虚偽の表示をする行為
- ファンド募集ページ上の資金使途の表示が実際と異なっていた。
- ファンドの取得勧誘に関し、重要な事項につき誤解を生ぜしめるべき表示をする行為
- ファンド募集ページにおいて、「貸付審査及びモニタリングを実施している」と表示していたが、実際には行っていなかった。
- 当社の管理上の問題点
- A社の開発スケジュール遅延や資金の不正使用を認識していながら、A社に対する新規ファンド募集を行った。また、実効的な貸付審査及びモニタリングが行われていなかった。
- 1カ月間の業務停止命令
- 経営管理体制及び業務運営体制の再構築などの業務改善命令
4.新規募集停止およびバンカーズによる買収
「SBIソーシャルレンディング」は2021年4月に新規募集を停止しました。その後募集が再開されることはなく、ソーシャルレンディング事業から撤退することになりました。そして、2022年3月、SBIソーシャルレンディング株式会社は株式会社バンカーズにより買収され、ソーシャルレンディング事業は同社へ承継されています。
バンカーズへ事業承継した背景
SBIソーシャルレンディング株式会社は、「バンカーズ」を含め複数社から事業承継の申し出があったとしており、その中から「バンカーズ」を選定した理由として以下を挙げています。- 金融機関としての専門性が高いこと
- 適正なコンプライアンスとガバナンスの体制を有している
- 融資型クラウドファンディングサービスの運営実績がある
SBIソーシャルレンディング事件の教訓とは
SBIソーシャルレンディング事件について詳しく解説してきました。「SBIソーシャルレンディング」は当時業界最大手で、なおかつ上場会社であるSBIグループの1社が起こした不祥事として、ソーシャルレンディング投資家のみならず社会に大きな衝撃を与えました。
SBIグループが損失補填を行ったことにより結果的に投資家の損失は避けられましたが、一歩間違えれば取り返しの付かない損害に発展していた可能性もあります。当然ながら、ソーシャルレンディングという投資自体の信用低下につながったことも否めず、業界全体への負の影響も少なからずあったと考えられます。
この一連の事件から学ばなければならないもっとも重要なことは、何をしているどこの事業者にお金を貸すのか、その事業者はお金を貸すにあたり信用に足る事業者なのか、そして、ソーシャルレンディング事業者に確かな与信審査能力があるのか、ということを投資家が見極めなければならない、ということです。
ソーシャルレンディングに投資を行う際は、これらのことに十分に注意をした上、さらに資産を一点集中させることなく分散投資も行う、といったリスクマネジメントも必要になります。こうした事件を振り返ることで投資の基本に立ち戻り、あらためて気を引き締めていくことをおすすめします。
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